万年筆インクの耐光性を実験的に検証します
私の手持ちの万年筆インクの耐光性を調べてみたく、簡単な方法ですが実験をしてみます。
こちらの記事ではその実験・検証の記録として書いていきます。(経過報告も随時記事にしていく予定です。)
実験に使用するサンプル写真も載せますので、万年筆インクの色見本としてもぜひお使いください!
なお、今回の検証はインクメーカー・販売店とは関係なく、私個人の興味による取り組みですので、悪しからずご了承のうえご参考としていただければ幸いです。
[目次]
1.実験概要
実験と言っても、あくまで「どれくらい日に晒されたら褪色するのか」を把握するための簡易実験ですので、どうぞその点をご了承のうえ創作等の参考としていただければ幸いです。
実験の目的
どのような条件下で褪色が起こるのか?
→どの条件下であれば褪色は防げるのか?を探りたい
特に下記の場所②(室内照明のみに当たる)であまり褪色しない、という結果が得られればとてもとても嬉しい!頑張れインク!光に負けるな!
実験に使用するインク
DREAM INK(染料インク)29色
蘇州博物館シリーズ(染料インク)2色
薫月文具堂オリジナルインク(染料インク)2色
tramol(顔料インク)4色
Catty boxオーロラインク(染料インク)1色
★全て薫月文具堂さんのストアで購入できるインクです★
★なおDREAM INK含め販売している「全インク」ではありません。あくまで私の手持ち分のみです。また現在ストアには無い色、期間限定色のため販売終了している色も含まれていますのでご了承ください★
実験方法
ベタ塗り/滲ませ(遊色) で塗ったサンプルを切り分け、下記の3ヶ所に設置(保管)して色の変化を定期的に観察します。
場所①:ファイルに入れて保存(全ての光を遮断して保管)
場所②:本棚の横=室内照明のみが当たる場所に設置(窓からの日光は当たらない)
場所③:南面窓の近い壁に設置(窓からの日光、室内照明ともに当たる)
場所③は12月~2月中旬までは14時~16時に直射日光ががっつり当たる場所です。
観察頻度:(今のところ)2週間経過毎に撮影(スキャン)して色の変化を観察する予定です。
観察経過については、こちらのブログで報告していきます!
この実験をする私の目的が「万年筆インクを使用したイラストがどの程度の期間の展示に耐えられるのか」を把握することなので、こんな感じでざっくりとした実験方法で行います。
2.使用するサンプル
使用するサンプルの写真を載せます。
どの色も溜息が出るほど美しくて、このサンプルだけでもう満足してしまいます…
褪色すること前提での実験なので、こんなきれいな色を日に晒すことに胸が痛む…(でもやる。)
★サンプル写真を色見本として参考にされる場合は下記事項をご確認ください★
・使用した紙:アルビレオ(パルプ100%水彩紙)
→万年筆インク(特に遊色、フラッシュするもの)は使う紙によって色がまったく変わってきます。また、今回使用したアルビレオは紙自体にややクリームがかった色がついており、若干インクの発色に影響を与えていると思います。
特にフラッシュインクについては、水彩紙ではフラッシュが出にくい傾向があるように思います。(今回もフラッシュインクのフラッシュはあまり出ていないです。が、フラッシュが出ていなくてもとても良い色ばかりです!)
販売店(薫月文具堂さん)のストア等に掲載されている色見本と比較してみるとなかなか面白いのではないかと思います。
・各インクの説明(ラメやフラッシュの色)は、販売店(薫月文具堂さん)のストアに記載されている説明と、一部(現在ストアに掲載されていない色)については私のしょぼしょぼ眼力による主観的な色判断が混じっておりますことをご了承くださいm(_ _)m
↓それでは合計38色のサンプルをご覧ください!
これらのサンプルを3つに切り分けてそれぞれの場所に設置しました。
因みに場所③の南面窓近くはこんな感じになっています↓
この実験開始後にスキャナーを導入したので、以降の経過報告は分かりやすいスキャン画像が添付できると思います。(今回はスマホカメラ撮影です)
3.実験をしてみる動機
さて、ここからは「どうしてこの実験を行おうと思ったのか」について書いていきます。
私は今、透明水彩絵の具と万年筆インクを使って絵を描いています。
そして作品は、原画を写真・スキャンしたものをSNSに発表しています。
ですが…特に万年筆インクでもあるDREAM INK(遊色やラメ入り)の微細で繊細で美麗なラメやフラッシュは写真やスキャンでは全然写らない…!!!という悲しみがあり、DREAM INKの美しさをぜひ見て知っていただければなぁ…という思いもあり、そろりそろりと勇気を出して原画展示を視野に入れて活動を始めようかな、計画しています。
そこでとても気になったのが作品の耐光性です。
「染料インクは耐光性が無い」というのは情報として知っていたのですが、ではどの条件/どれくらいの期間で色が褪色し始めるのか?を把握することができれば、展示場所や展示期間に気をつければ作品の褪色を防ぎながら展示できるのでは?と考えた次第です。
なお、画材の耐光性:染料/顔料の特性について少しだけ説明します。
染料:水や溶剤に溶け、染料分子の大きさは1~3㎚(ナノメートル)。繊維の染色が主な用途。一般的に耐光性に劣る。
顔料:水や溶剤に溶けず、顔料粒子の大きさは50~1,000㎚と染料分子の何千何万倍の大きさ。耐光性に優れている。
《参考:株式会社サクラクレパス 公式サイト「「画材の使い方」顔料と染料の違い」より抜粋》
そもそも染料インクは「印刷するための作品」に使用する前提で開発されてきた、と聞いたことがあります。
染料インクの鮮やかな発色は、印刷する際に色を拾いやすく適しているそうです。つまり、出版物のように「印刷されたものが完成作品」となるので原画の展示・保存には重きを置いていない作品を制作するために使用する…とういイメージでしょうか。
対して「顔料」は、透明水彩や油絵の具、岩絵の具等に多く使われています。耐光性に優れているので、それらで描かれた作品(例えば油絵の具を用いて描かれた絵画)は長期間展示をしていても目に見えるほど色が変化することはありません。(もちろん、適切な環境のもとでの展示である、という前提です。)
★耐光性に優れている顔料ですが、最終的には褪色するとのことです。全ての画材は例外なく褪色はしていくけれど、その速度が違うだけなんですね。
ところが!
そうした特性を持つインクですが、万年筆インクにおいては印刷には最も不向きな「ラメ入り」「フラッシュあり」そして「遊色」や「カラーチェンジ」といったインクが数多く販売しています。
でも、写真やスキャン、印刷には向かないけれど、どれもとても素敵な色のインクばかりです。
そもそもは「筆記すること」が万年筆インクの主たる用途ですし、そうしたインクは「使う本人が色を楽しむ」ことをメインにして開発されているのかな、と思います(あくまで私の推察ですが)。手帳などに書いて、閉じて保管されることを前提としているなら耐光性はそれほど気をつけなくても平気ですしね。
私もそう認識していたので、「とても素敵だけれど原画展示は難しいかな…」考えていたのですが…やっぱりどうしてもインク本来の美しさを見ていただきたいな!と強く思うようになりました。
もともと私は透明水彩を主として絵の創作をしていこうと準備していたのですが、遊色やラメが大好物で、且つ中華文化圏の歴史や伝統文化を学び始めていたところだったので、今私が主に蒐集している中国のインクメーカー「DREAM INK」の出しているインクを知った瞬間、そのインクがもつ物語にとても共感して、このインクで絵を描いてみたい!と強く思い一も二もなく飛びつきました(笑)
そして、実際とても素敵な色ばかりで、遊色の複雑さや微細なラメの輝きはどの色も千差万別で全部素敵でした!素敵ばっかり言ってますが、本当に素敵なんです…!
しかし、写真やスキャンでは特にラメやフラッシュは全然写らない…!このインクを使った作品をぜひ原画でみていただけたら…と思い、でもやはり耐光性がとても心配でなかなか踏み出すことができずにいました。
でも迷っていても仕方ないので、ざっくりでも耐光性を調べてみよう!と思い至った次第です。
室内照明である程度インクが頑張ってくれる(褪色があまりない)ようならガッツポーズ!褪色が始まるタイミングが分かれば、例えば絵を飾るのに「年間でトータル〇週間まで」とかの目安が分かるといいなと思っています。インクを光から守る!という気持ちです。
4.余談
因みに、どうしてほぼDREAM INKしか持っていないんだこの人…という疑問についてはここから書いていきます。
さて、この先は私の大いなる主観と推測による解釈を書いていきます。私は中国についての専門的な研究や知識を有しているわけではありません。また万年筆インクについても使い始めて2年くらいです。ですので、この先の解釈等はあくまで「中国美術・文化と万年筆インクが好きな一般人の独り言」としてお読みくださると幸いです。
「DREAM INK」は中国のインクメーカーさんで2016年創業とパッケージに書いてあります。老舗では無いけれど、新しいインクを次々と開発しています。
遊色やラメ、フラッシュがとても美しく、とても繊細に作られた色合いも素敵なのですが、何よりそれぞれのインクの名付け方がまたとっても素敵なんです。サンプルに付けた各色の名前を見ていただければわかると思いますが、中国の伝統文化を踏まえた上でのインク開発をしていらっしゃってるのが感じられる色合いと名前ばかりで、同じ漢字文化圏で生きてきて良かった…!と思ってしまうほどです。(そしてそれを余すところなく伝えてくださる薫月文具堂さんのストアの紹介文も素敵で、見て読んでいるだけでもとても幸せになれます…!)
主な用途が「筆記」である万年筆インク(とDREAM INK)にどうしてこうも惹かれてしまうのかを私なりに分析してみました。(ほぼほぼ個人の主観です)
中国では古代から「書」が発展してきました。「書聖」といわれる王羲之の最高傑作「蘭亭序」は永和九年(西暦353年)に書かれています。その後の時代に文化を牽引していく士大夫たちは、同じく「書」を極めていくために字形だけでなく筆法も研鑽していきました。そうした中で、書で使う道具である墨と筆を用い卓越した筆法でもって絵を描くようになっていきました。これが中国で始まった「水墨画」です。中国では職業画家も多くいましたが、特に水墨画は士大夫を筆頭とした「教養ある人の嗜む芸事」としてその文化を形成していきました。歴史的に「書」と「画」は同じ流れの中にあり、言われてみれば中国の水墨画はほとんどが「賛(さん)」と言われる「書」が画面の中にも沢山書かれています。古くから評価されてきた作品等は代々の所有者たちの賛がずーっと後ろまで継いで書かれていたりします。あと印(ハンコ)もたくさん押してあるのもなかなか面白いですよね。そんなに押す?というくらい押してあったり…そんな作品を見ていると「中国でも古来から押す=推すだったんだなー」と思っていつもニコニコ見ています。
DREAM INKは、そうした中国書画の伝統の流れの中でインク開発をしているように私は感じています。
具体的には、「筆」で書く/描くことを想定した遊色インクが多い気がしています。もちろん、万年筆やガラスペンで書かれた作品もとっても素敵です!
中国文化では、かつて墨が「書く」ためだけではなく「描く」ためのものであったように、「書く」と「描く」の境界が、西洋的な価値観よりもずっと低いというか、境界なんて無いのでは…と私は感じています。
ですので、たくさんの素敵なメーカーさんや素敵なインクが星の数ほどあるのですが、丁度(?)中国の文化や美術にドはまりしていた私にとってDREAM INKのインクたちがとっても心にぶっ刺さった…のだと思います。
同じように、日本や海外のメーカーでも素敵な物語をもつインクたちが本当に沢山開発されています。特に日本国内でもとっても素敵なご当地インクやオリジナルインクが沢山あって、それを楽しんでいらっしゃる皆さまもきっとそれぞれの物語に惹かれているんだろうな、と沢山の素敵なインク作品をわくわくしながら拝見しております。
今回、この検証が万年筆インクを楽しむ皆さまの創作のご一助となれば、とても嬉しく思います。
5.終わりに
以上で今回の耐光性実験の概要になります。
経過を見つつ、X(旧Twitter)でちまちまと経過画像を載せようかな、と予定しています。
ブログでのこの実験の次のご報告は半年後くらいになると思いますので、どうぞのんびりとお待ちいただければ幸いです。
またまた長文となりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました!!